如来(にょらい)とは?
如来(にょらい)とは、悟りを得た存在のことです。
仏像においては「如来」「菩薩」(ぼさつ)「明王」(みょうおう)「天部」(てんぶ)と4種類に大別されるうち、もっとも位が高いとされます。
仏教においては真理に到達すること、つまり悟りを得ることを目指して修行をします。
そのため、すでに悟りを得て真理に触れた存在である如来が、最高位とされるのです。
※ちょっとコアな話
如来という名前は、サンスクリット語のタターガタという言葉が漢訳された名前だそう。真理という概念を訳すときに「如」とされ、真理そのものとしてあらわれ人々を救いに「来」る者(=釈迦)のことを指しています。
しかしサンスクリット語の原義では「あのように立派な行いをした人」のような意味になるのだそう。漢訳された「如来」という名前には大乗仏教的なニュアンスが含まれているため、原義とは異なるという指摘もあるようです。
基本形となるのは釈迦如来
如来に限らず仏像すべてにも言えますが、基本形は釈迦如来(しゃかにょらい)です。
過酷な修行を経て悟りを得たときの姿がモチーフなので、如来は基本的にはとてもシンプルな衲衣(のうえ)という衣を身に着けているのが特徴。
服装に着目すると、如来よりも菩薩のほうが豪華に見えますが、これは悟りに至る前の釈迦が王子であったことに由来しています。
釈迦(しゃか)は仏教を開いた人物として知られていますが、自らを信仰の対象としなかったこと、また彼の偉業に対する畏敬の念から、没後500年以上は仏像がありませんでした。
しかし紀元1世紀ごろになり、釈迦の姿をした仏像があらわれはじめます。
大乗仏教が発展してきたこともあり、菩薩や天部なども含め多種多様な仏像が制作されはじめました。
※ちょっとコアな話
仏像が存在する前までは、釈迦の遺骨「舎利」(しゃり)を祀る「ストゥーパ」という仏塔が崇拝の対象となっていました。人間としての釈迦はどこにも描かれませんでしたが、修行中に使っていたターバン、玉座、菩提樹、蓮の花、釈迦の足をかたどった石などを彼の象徴として暗示していたそうです。
如来像の特徴(仏相)
如来像にはおもに以下のような特徴があります。
これらは悟りを得たことにより備わったとされる、超人的な特徴です。
ちなみに仏像というよりは釈迦の姿については、その容姿の特徴をまとめて「三十二相八十種好」と数えることもあります。
1.肉髻(にくけい)
肉髻(にくけい)とは、頭部のなかでも盛り上がっている部分のこと。
伏せたおわんのような形が特徴的で、智慧が詰まっているとされています。
2.螺髪(らはつ)
螺髪(らはつ)とは、パンチパーマのように丸まった髪型のこと。髪の1本1本が右回りに渦巻いていて、固まっているとされています。
ただし仏像が作られはじめた1世紀ごろの釈迦如来には、螺髪の特徴が見られないこともあります。
初期の釈迦如来はウェーブの髪を頭上に束ねた姿。これは当時の貴族の髪型であるとか、ギリシアの彫像の踏襲であるとか、といった説があるようです。
3.白毫(びゃくごう)
白毫(びゃくごう)は額の中心にあります。
ホクロやピアスにも見えますが、螺髪と同じく右回りに丸まった毛です。
白い毛で、世界を照らすために光り続けているとされています。
4.三道(さんどう)
三道(さんどう)とは、首についている3本のシワのことです。
悟りに至るまでの修行の3段階(見道、修道、無学道)をあらわしているとされています。
例外的に三道がない仏像があったり、2本や4本であらわされたりすることも。
5.印相(いんそう)
印相(いんそう)とは仏像の手の形のことです。
指の曲げ方や手の組み方によって仏像に込められた意味や願いが異なります。仏像の種類を見分けることも可能です。
たとえば釈迦如来の場合は、開いた右手のひらを相手に見せるような形の「施無畏印」(せむいいん)、そして開いた左手を下向きにして相手に見せるような形の「与願印」(よがんいん)が特徴的。
「施無畏印」は、説法を聞く人々に対して「畏れなくていい」という意味があります。また「与願印」には、相手の願いを聞き届けようとしている姿勢です。
6.蓮華座(れんげざ)
蓮華座(れんげざ)とは、その名のとおり蓮華(れんげ/はす)の形をしている台座のことです。
蓮華は仏教において象徴的なシンボルで、阿弥陀経のなかでも「池の中に蓮華あり」と、極楽浄土に蓮華が咲いていることが説かれています。
7.結跏趺坐(けっかふざ)
結跏趺坐(けっかふざ)とは、如来の一般的な座り方のことです。
あぐらをかいたような形ですが、両足の甲はそれぞれ、反対側の太ももの上にのせられています。
結跏趺坐は、仏教において修行をするときの座り方です。釈迦が悟りを得た姿を基本形としているため、如来もこの座り方が多いのでしょう。
ただし例外として、立っている姿の如来像もあります。
8.衲衣(のうえ)
衲衣(のうえ)とは、全身をおおう袈裟(法衣)のこと。
釈迦が修行中に着ていた衣服をモデルにしているので、シンプルで粗末ない服であるのが特徴的です。
如来の代表的な種類
釈迦如来(しゃかにょらい)
- ご利益:修行を助け悟りへと導いてくれる
- 持ち物:なし
- 印相:施無畏印、与願印
釈迦如来(しゃかにょらい)は最初に登場した仏像で、すべての仏像の基本形とされています。
質素な衲衣(のうえ)を身にまとい、右手には人々の畏れを取り除く施無畏印、左手には人々の願いを聞き叶えようとする与願印が見られることが多いです。
釈迦如来を基準として、他の如来像や仏像と見比べてみるのも楽しいかもしれませんね。
※ちょっとコアな話
ちなみに釈迦如来には、釈迦の生涯を表現した仏像が存在します。
右手で天を指差しながら「天上天下唯我独尊」と唱えて誕生した姿をあらわす誕生仏、厳しい苦行を終えてやせ細った姿をあらわす出山釈迦立像、横たわり入滅(にゅうめつ)する姿をあらわす涅槃像(ねはんぞう)が代表的です。
阿弥陀如来(あみだにょらい)
- ご利益:死後に極楽浄土へ連れて行ってくれる
- 持ち物:なし
- 印相:阿弥陀定印、来迎印
阿弥陀如来(あみだにょらい)は、「自身の名前を唱える者を救う」と誓ったという如来。「南無阿弥陀仏」と唱える人を極楽浄土へと導く仏です。
釈迦如来と同じく螺髪(らはつ)や白毫(びゃくごう)、衲衣(のうえ)などの特徴が見られます。
印相は阿弥陀定印(あみだじょういん)と来迎印(らいごういん)の2種類が代表的です。
しかし、じつは全部で9段階の印相があり、浄土へ迎える人々の善行の数と信仰の深さに対応しているとされています。
ちなみに「鎌倉大仏」として知られる鎌倉・長谷の大仏や、茨城県の「牛久大仏」なども阿弥陀如来です。
薬師如来(やくしにょらい)
- ご利益:病気やケガを治してくれる
- 持ち物:薬壺(やっこ)
- 印相:施無畏印
薬師如来(やくしにょらい)は、人々の病気やケガを癒やしてくれるとして信仰を集める如来。
基本的には釈迦如来と同じ姿ですが、左手に薬壺(やっこ)をたずさえているのが特徴的です。(欠損を含め、例外的に薬壺をもたない薬師如来もあります。)
光背(こうはい)には小さな仏「化仏」(けぶつ)が描かれることも多く、薬師如来を助ける存在としてあらわされています。
また薬師如来の向かって右側に日光菩薩、向かって左側に月光菩薩が配置されることが多く、この配置のものをひとまとめに「薬師三尊像」と呼ぶことも。
大日如来(だいにちにょらい)
- ご利益:願望成就
- 持ち物:宝冠、首飾りなど
- 印相:智拳印、結界定印
大日如来(だいにちにょらい)は、密教において絶対的な存在とされる如来。宇宙を統べる絶対者、あるいは宇宙そのものとして信仰されていて、すべての仏は大日如来の化身とされています。
宝冠(ほうかん)や首飾りなど、豪華なアクセサリーを身に着けていることが多いことが、他の如来像と大きく違う特徴です。
他にも、衲衣(のうえ)ではなく条帛(じょうはく)という装飾用の布を身にまとっていたり、金剛界と胎蔵界という2つの世界における違いが印相であらわされたりする点にも特徴があります。
その他の如来
毘盧遮那如来(びるしゃなにょらい)
- ご利益:現世安穏、所願成就
- 持ち物:なし
- 印相:施無畏印、与願印
毘盧遮那如来(びるしゃなにょらい)は、仏教における真理そのものを仏の姿としてあらわした仏像。
有名な毘盧遮那如来像には、東大寺の「奈良の大仏」があります。
仏教の教えそのものを表現したものは「法身仏」(ほっしんぶつ)と呼ばれますが、毘盧遮那如来もそのひとつです。
釈迦如来は毘盧遮那如来の化身とされ、毘盧遮那如来が座する蓮華座の花びら1枚に100億の国があり、1つの国に1人の釈迦があらわれるとされています。
蓮華座の花びらは1,000枚あり、人間が住む世界はそのうちのひとつ。毘盧遮那如来があまねく照らす広大な世界のうちの、小さな国に過ぎません。
弥勒如来(みろくにょらい)
- ご利益:来世の幸せ
- 持ち物:なし
- 印相:施無畏印、与願印、禅定印など
弥勒像といえば弥勒菩薩(みろくぼさつ)が代表的です。
弥勒菩薩は、釈迦の没後56億7000万年後に人間界に生まれるとされ、釈迦に代わって衆生を導くとされています。
しかし未来ではなく現世の人々を救う如来として、弥勒如来(みろくにょらい)の像が制作されました。
平安時代までは片足を組み頬杖をついた半跏思惟(はんかしゆい)の姿の弥勒菩薩像が多かったようですが、平安時代以降は弥勒如来像が増えていきます。
多宝如来(たほうにょらい)
- ご利益:福徳円満、功徳と福利
- 持ち物:なし
- 印相:合掌、法界定印、説法印
多宝如来(たほうにょらい)は、日蓮宗・法華宗において釈迦の説いた法華経の正しさを保証したとされる仏。
釈迦を多宝塔に招き入れたとされ、仏像においても、釈迦とならんで多宝如来像がセットであらわされることが多いようです。
釈迦と多宝如来がそろって合掌する姿、そろって法界定印をあらわす姿のほか、釈迦が法界定印(ほうかいじょういん)、多宝如来が説法印(せっぽういん)をあらわしている姿が一般的です。